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WHAT A BEAUTIFUL NIGHT

#先にお返事
お話を読んでくださっただけでなく、コメントまでありがとうございます。
かわいいハピエンが好きです!

#『信一傳』の好きなところを言う①
『信一傳』早川書房で出るらしいですね。楽しみすぎる。
というわけで、『信一傳』の好きなところの話をしたい。いろいろあるので今日は①。
ちょっと隙間開けときます





『信一傳』は黒社会ジュブナイル小説だ、と私は言い張っているわけですが。
本当に、少年期~思春期~青年期の心の移ろいや成熟を描ききっててすごいんだよー!と訴えたい。
その時期を描いているためか、いろんな部分で描写も繊細なのです。

#好きなところ①:情景に心象を重ねる描写が良い
以下は私が特に好きな、第4回の1節。16歳の信一が龍捲風の傘の下で成長することに耐え切れなくなって家を出るシーンの一部。訳の拙さはお許しを。

晚風從車窗掠過信一的臉,似在道別,又似想留住少年。
可這個對新事物充滿期盼的少年,早已想飛。留在此處,不會進步,趁年青,就要任性地出走一趟,再不往前,就會被這座城困死。
為了找人生不同形狀,迎著順風也好,逆風也罷,總得放手去擁抱一趟。
巴士拐彎離開九龍城,進入太子道,風景如回憶片段往後掠過,叫信一把那巨大的影子甩在腦後,往昔的時光,都定格在此。
信一終於走出成長的地方,心裡道別:我要走出你的世界了,再見。

夕暮れの風が窓から吹き込み、信一の頬を撫でていった。まるで「さよなら」と告げながら、それでも少年を引き止めたくてそっと触れてくるように。
しかし、新しいものへの期待に胸を膨らませたこの少年は、すでに飛び立ちたいと思っていた。ここに留まっていても、進歩はない。若いうちに、一度は思いきり羽ばたかないと。今、前に進まなければ、この街に閉じ込められてしまう。
自分の人生の形を見つけるために。
追い風でも、逆風でも、ただ飛び込むしかなかった。
バスはカーブを曲がり、九龍城から太子道へ入った。思い出の断片が過ぎ去ってゆく。流れる景色は、信一に告げていた──あの巨大な影を振り払い、懐かしい日々をこの場所に置いていくように。
信一はついに生まれ育った地を離れ、心の中で別れを告げた。
「俺は、あんたの世界を出るよ。――さよなら」

『信一傳』第四回/余兒 拙訳)

見よ、この美しき少年の日の旅立ちを……!(ドーン)

私は特に「晚風從車窗掠過信一的臉,似在道別,又似想留住少年。」のところが好き。”頬を撫でる風”として龍捲風が語らなかった「本当は引き止めたい」心情を滲ませてくるのエモの塊。ここ「留住信一」じゃなくて「留住少年」とするところにときめきがある。16歳の信一という一個体にプラスして、「少年性」そのものへの惜しみと慈しみを感じてます。地の文ですら少年期の終点に名残を惜しんで頬を撫でていく描写の美しさ。

あと、「巴士拐彎離開九龍城,進入太子道,風景如回憶片段往後掠過」も唸っているフレーズ。「九龍城から太子道へ」と地名を連ねるだけの描写が信一の心の旅路にぴったり重なっている(=目に見える風景が、彼が九龍城砦という子供時代を脱ぎ捨てて新天地へ向かう心象風景になっている)のがクールだし、そこに少年時代が1枚の写真のように切り取られ過去になっていくさまをバスの車窓を流れる風景として重ねるのが非常に”テクい”。惚れ惚れする……!

個人的に、風景が心象を映している描写が好きなので、余兒先生のこのへんの筆の走りっぷりと描写の繊細さにはため息が出ます。バスの窓に頬杖をついてネオンが光る街を駆けてゆく信一が目に浮かぶ。

と、書きながら思ったけど、ビジュアルのイメージこれ(↓)だな。
夜の道路の灯りって、照らされた人へ特別な魅力を付加する力があると思う。

反復によって描かれる成長の物語という視点でも今度書きたい。あと「神と英雄という神話的な観点から読み解きたいんだ、私は!」という話とか。

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